10日目、ご飯を食べるためだけに国境を越えた。ウィーンからブラチスラバへ
オストラバの朝。この日の旅程は、チェコからウィーン、そしてスロバキアへ。3つの国をまたぐ一日です。
泊まったホステルは、ピンクとクリーム色に塗られた、なかなかファンキーな外観の建物でした。最寄りの停留所の券売機でトラムの1日券を買うと、出てきたのは青くてちょっとかわいらしいチケット。値段は東京メトロの1日券とほとんど変わりません。これで、ドルニー・ヴィートコヴィツェ地区へ向かいました。かつての製鉄所の設備が、そのまま残っている場所です。

オストラバのドルニー・ヴィートコヴィツェ地区。製鉄所の巨大な配管と構造物が残る
鉄の町の、その後
オストラバは鉄で栄えた町で、一時は中央ヨーロッパの製鉄の中心地にもなったほどだそうです。「中欧の鉄道はオストラバの鉄で走っている」と言われたこともあるとか。けれど産業の移り変わりとともに廃れていき、この製鉄所も閉鎖されました。
最後の高炉の火が消えたのは1998年。いまは国の文化財になり、巨大な製鉄所の跡は、文化や観光、教育の場として生まれ変わっています。敷地には、犬のような形をしたアート作品も置かれていました。
3分で乗り換え、食堂車でお茶を
トラムから国際列車への乗り換え時間は、3分しかありません。駅の通路を走って、なんとか間に合いました。ここからオーストリアへ向かいます。
ウィーン行きのユーロシティでは、食堂車へ。コーヒーとチーズケーキで、合わせて27ズウォティ。

ウィーン行きユーロシティの食堂車。赤い座席が並ぶ

食堂車のテーブルに置いたコーヒーとチーズケーキ
エスプレッソのような濃いめのコーヒーは、朝の寝ぼけた頭をしゃきっとさせるのにぴったりでした。ほどよい甘さのケーキと下のクッキー生地、そこにコーヒーの苦みが合います。ただ、味そのものよりも、食堂車でお茶をするという体験がうれしかった。なんとも旅情があっていい時間でした。座席もふかふかです。
自分の席に戻って、恒例のコンパートメント紹介。網棚と、頭の両側を包み込むようなバケットシート、そしてコンセント。ヨーロッパの規格なので、日本から行く人は変換プラグを忘れずに。

列車のコンパートメントの座席
窓の外には、ぶどう畑のような景色。線路脇では、保線の作業員たちが集まって作業をしていました。
ウィーンまでの大半は、コンパートメントを一人で独占できました。とてもラッキーです。途中からは、スペインのテネリフェ島から来た男性と相席になって、英語で話をしました。テネリフェ島は日本とゆかりがあるそうで、その始まりは1940〜50年代に、日本の漁師たちがタコを獲りに来たことだったと教えてくれました。これがすごくおもしろかった。ひとときの出会いですが、旅をしている感じがして、よかったです。
ウィーン中央駅は、ホームが何本あるのか分からないくらい大きな駅です。ホームがとにかく長く、1本のホームに2本の列車を縦に並べて停められるほど。さすが中央駅という貫禄でした。オストラバからは3時間ちょっと。ここまで、とても快適な列車旅でした。今日はめちゃくちゃ楽しい。そう思っていました。

ウィーン中央駅のホーム
駅の券売機で、ウィーン市内の地下鉄やトラムが乗り放題になる3日券を買いました。ウィーンを拠点に、ハンガリーやスロバキアへも足をのばすつもりです。現金しか使えなかったらどうしようとひやひやしましたが、カードが使えて一安心。地下鉄とトラムを乗り継いで、宿へ向かいます。
Wi-Fiが、ない
ウィーンの宿は、アパートタイプの部屋でした。予約サイトには「Wi-Fiあり」と書いてあったのに、実際にはありません。聞いてみると、Wi-Fiはないと言われました。それは話が違うじゃないか。交渉してもどうにもならず、さすがにブチギレです。
サポートとやりとりをして、eSIMを買うための補償をもらいました。Wi-Fiは戻ってきませんが、代わりにeSIMを買うには十分な額です。気を取り直して、ご飯を食べに行くことにしました。

ウィーンで泊まったアパートタイプの部屋
夕食は、隣の国で
ウィーンは物価が高い。そこで、列車で国境を越えて、スロバキアの首都ブラチスラバまで夕食を食べに行くことにしました。
ブラチスラバ行きの列車には、背もたれに食事用のテーブル、足元には足置きまで付いていました。まるでJRの特急のグリーン車です。それなのに、これは特急ではなく、ただの近郊列車。座席の背もたれは、バッタの表皮のような緑色でした。窓の外には風力発電の風車と畑が広がり、列車は遅れることなくブラチスラバに着きました。
駅から旧市街までは歩くには遠く、バスでドナウ川を渡ります。バス停から10分ほど歩くと、石畳の旧市街。エストニアのタリンで見たような街並みが広がっていました。広場のパラソルの下では、おじさんやおばさんがテラス席で談笑していて、それがまたこの街並みにいい味を出しているんです。

ブラチスラバ旧市街の広場。木陰にベンチが並ぶ

ブラチスラバの市内交通の券売機
旧市街の醸造所レストランで、地ビール(3.5ユーロ)と、クリームソースを絡めたパスタのようなスロバキア料理、ブリンゾヴェー・ハルシュキ(12.3ユーロ)。ビールは爽やかな風味の、水みたいにすっと入るタイプでした。
ハルシュキは、スロバキアの国民食のひとつです。ジャガイモの生地でつくった小さな団子に、ブリンザという羊のチーズを絡めて、ベーコンをのせたもの。パスタに見えたのは、この団子でした。クリームが濃厚で、舌に絡みつくような味でした。これは本当においしかった。熱いので、冷ますようにビールをもうひと口。

醸造所レストランのビールのメニュー。0.5Lは3.50ユーロ
食後は、大統領官邸の前の広場へ。真ん中に地球儀があって、そのまわりを噴水が取り囲んでいます。ユニバの入り口みたいです。奥に建つ官邸は1760年に完成したロココ様式の宮殿で、今はスロバキアの大統領が暮らす公邸になっています。前には国旗がいくつも掲げられていました。
広場のまわりを歩くと、壁に落書きがあったり、人通りが少なかったりして、少し治安が心配になる場所もありました。路地裏のパブには、昨日オストラバで飲んだピルスナー・ウルケルの看板。左へ右へとうねりながら奥へ続く細い道を見ていると、なぜか郷愁に駆られます。わかる人、いるでしょうか。
来ない列車と、終電
日が傾いてきたころ、バスでドナウ川を渡って駅へ戻りました。
帰りの駅(ブラチスラバ・ペトルジャルカ駅)で、ウィーン行きの列車が来ません。最初は30分遅れという話でしたが、鉄道会社側の故障らしく、1時間待っても来る気配がない。駅にいる人たちは、みんな待ちぼうけです。乗客はカオス状態で、みんなブチギレていました。

ブラチスラバ・ペトルジャルカ駅の発車案内板。夜9時を過ぎても列車を待つ

ペトルジャルカ駅の到着案内板
待っているあいだに、バスで夜の大統領官邸を見に行って、戻ってきたころにようやく列車が来ました。ライトアップされた官邸は、昼とはまた違ってかっこよかったです。
帰りの列車は、赤い革張りのシート。テーブルもドリンクホルダーも付いていますが、ホルダーの溝が少し浅いのが渋いところです。とりあえず、今日中にウィーンの市内まではたどり着けそう。宿までのことは、着いてから考えればいい。そう思って席に座りました。
遅れを取り戻すように飛ばす列車でウィーンへ。スマホで測ると、時速137キロが出ていました。
市内に着いたのは深夜。地下鉄の終電に、間に合いました。思わず「よかったー」と声が出ました。車内には、見渡すかぎりほとんど人がいません。こんなこともあるんだな、と思いました。これに乗れば、部屋に帰れます。
この日に出ていったお金:12,656円 50万円の残り:181,265円