途中

6日目、乗れないはずの列車に乗せてもらった。リガを経てヴィリニュスへ

タリン駅から列車で南へ。国境の駅ヴァルガで乗り換えて、ラトビアのリガ、さらにリトアニアのヴィリニュスまで、1日でバルト三国を縦に移動する日です。

朝のタリンは曇りで、少し雨もぱらつく、どんよりした天気でした。駅へ向かって歩いている時点で、列車の出発まであと15分。けっこうギリギリです。

間に合わなかったら、タリンでもう1泊すればいい。そう思っていたので、焦りはまったくありませんでした。まあ、どうにかなるでしょう。

ホームに着くと、ヴァルガ行きの列車はもう停まっていました。いまここで出発されたら、それはそれで笑える。そんなことを考えながら、1等車の横を早足で通りすぎて、ユーレイルのパスで乗れる2等車へ。なんとか無事に間に合いました。

タリンを出る列車の車内に貼られた、エストニアの路線図

タリンを出る列車の車内に貼られた、エストニアの路線図

物価が、一気に下がった

タリンからヴァルガまでの列車はWi-Fiが速くて快適でした。座席も革張りです。窓の外は、ひたすら森。調べてみると、エストニアは国土の半分以上が森林なのだそうです。最初は車窓を撮っていたのですが、ずっと森が続くので、さすがに途中で撮るのをやめました。

2〜3時間ほどで、終点のヴァルガへ。エストニアとラトビアの国境にある町です。もとはひとつの町でしたが、1920年に国境線で2つに分けられ、エストニア側がヴァルガ、ラトビア側がヴァルカになったそうです。

ヴァルガからのリガ行きの特急は、人でいっぱいでした。それでも、なんとか2等車に席を確保。2等車なのに座席が広く、前には荷物置き、テーブルも広げられて、ヘッドレストは革張りでした。

ここで、驚きの事実が分かります。リガまでは座席の予約がいらない。これは前の日に駅のカウンターで聞いた話のとおりでした。ところが、リガからヴィリニュスまでの列車は、座席予約券を買わないといけないらしいのです。

教えてくれたのは、親切な乗務員のおじさんでした。金曜日なので混んでいるけれど、折りたたみ式の補助席ならたぶん座れる。リガに着いたら真ん中の車両に移って、すぐそこに座りなさい。そう言ってくれたので、なんとかなりそうだと安心しました。

列車に乗り始めて6時間。ようやくラトビアの首都リガに着きました。ホームの多い、広い駅です。

本当はリガも観光したかったのですが、日数がそれを許しません。同じ列車でそのままヴィリニュスへ向かいます。乗り継ぎの10分ほどのあいだに、駅の外へ少しだけ出てみました。駅前の道をまっすぐ行くと、旧市街に出るようです。時間があったら歩いてみたかった。ラトビア、ほんとうに見たかったです。

リガの物価は、だいたい日本と同じくらいの感覚です。フィンランド、エストニアと高い物価に悲鳴を上げてきた私には、ありがたい国でした。リガのスーパーで買った水と、レーズン入りの菓子パンは、合わせて約230円。南に下りてきて、物価が一気に下がったのを感じます。

「満席です」と止められて

リガからヴィリニュスへの列車で、問題が起きました。この列車は座席の予約が必要だったのです。ユーレイルのパスでは車内で乗務員に席を指定してもらう仕組みなのに、私は予約をしていませんでした。新幹線の指定席のようなもので、指定席が埋まっていたら乗れません。

買い出しから戻ってくると、ドアの前に立っていた乗務員に止められました。「もう入れない、満席だ」「予約はしているのか」。

困った顔をしていたのだと思います。乗務員は「とりあえず、いいから乗りなさい」と言って、私を乗せてくれました。そして車掌さんが、キャンセルの出た席を探してくれました。しかも、たまたま隣の席もキャンセルで空いていて、2席を1人で使うことができました。ひとり旅だったから、融通がきいたのかもしれません。本当に運がよかった。

あとで振り返って驚いたのですが、タリンからヴィリニュスまで通しで走るこの国際列車は、ネットで調べると翌日以降も売り切れでした。ここで乗れなかったら、列車はあきらめるしかなかったのです。

ピンク色に装飾された列車の車内。犬のイラストの横に水飲み用の器が置かれている

ピンク色に装飾された列車の車内。犬のイラストの横に水飲み用の器が置かれている

列車は時速120キロ前後で走っていました。湘南新宿ラインの最高速度より、少し遅いくらいです。窓には、かわいい卵のステッカーが貼られていました。

列車の窓に貼られていた卵のステッカー

列車の窓に貼られていた卵のステッカー

ヴィリニュスに着く30分前には、朝10時に乗ってから、もう10時間半ほど列車に揺られていました。疲れ切っていて、車窓にも飽きていました。車内は全部ピンクで飾られていて、だんだん目がしょぼしょぼしてきました。撮影のやる気も、地の底です。早くヴィリニュスに着いてくれ、と思っていました。

夜9時すぎ、ヴィリニュス駅に到着。それでも、長い時間を一緒に過ごした列車を降りるときは、友達が去っていくような、少し寂しい気持ちになりました。

星5の1日

ヴィリニュスの駅舎は、首都にしてはずいぶんこぢんまりしていました。駅にはバーが併設されていて、外にも席が出ているのがいい感じです。

駅前のロータリーには、屋根にパンタグラフのようなものを付けたトロリーバスが入ってきます。日本ではもう見られなくなった乗り物が、ここでは普通に走っていました。走る音がほとんどしません。駅の中には、コンタクトレンズの自動販売機までありました。度数ごとに並んでいて、日本では見たことのない光景です。

坂を下って、旧市街の宿へ向かいました。歩きながら、今日のことを考えます。

危うく列車に乗れないところだった1日。それでも、人に助けられて、知らない人に話しかけられて、旅の人との出会いはやっぱり大事だと感じました。星5の1日です。

「この国で一番うまいビールをください」と頼んで出てきたビールは5ユーロ。ラガーのようでいて、柑橘の香りもあって、少しえぐみもあって、とてもおいしかったです。1杯目で、もう少し顔が赤くなっていました。

ヴィリニュスで飲んだビール

ヴィリニュスで飲んだビール

金曜の夜で、街はにぎやかでした。白い市庁舎の前には人が集まって、野外コンサートのようなことをしています。旧市街の小道にはバーが並び、テラス席を照らす間接照明がいい味を出していました。テラス席は、ほとんど埋まっていました。

この夜の宿は、8人部屋の2段ベッドのホステル。こんなに大人数の部屋に泊まるのは、人生で初めてです。少しだけ緊張していました。

荷物を置いて、また夜の街へ。同じ石畳でも、タリンとは少し雰囲気が違います。ショーウィンドウには、アニメのウサギみたいな、シュールな動物の人形がたくさん並んだ店もありました。ヴィリニュスの旧市街は北ヨーロッパでも有数の広さで、1994年に世界遺産になっています。テーマパークのような、現実にはなさそうな美しい街並みでした。

街を歩いていると、道端で声をかけられます。これから結婚する女性から、着ているパーカーに何か書いてほしいとマーカーを渡されました。書いたお礼に、チュッパチャプスを1本もらいました。特にオチはありません。でも、楽しい金曜の夜でした。

夜のヴィリニュスの通り。街灯が並び、奥の建物が青くライトアップされている

夜のヴィリニュスの通り。街灯が並び、奥の建物が青くライトアップされている

リトアニア料理で、復活

夕食は、リトアニア料理の店「Etno Dvaras」へ。このあたりから酔いが回ってきて、だいぶグダグダです。

チェリーの香りがするハウスワインは、少し甘くて、ワインを飲み慣れない人でもいけそうな味でした。ガンガン飲めてしまいそうで、ちょっと怖いくらいです。

フレッシュなチーズとハチミツの盛り合わせは、このあたりの郷土料理だそうで、なぜかきゅうりも添えられていました。チーズはそれほど熟成していなくて、さわやかで軽い味。ハチミツをつけると、ワインにものすごく合います。きゅうりには塩がふってあって、おいしい。口直しなのかもしれませんが、なぜきゅうりなのかは、最後まで分かりませんでした。

それから、卵の入ったパンケーキ。ベーコンを炒めたソースとヨーグルトのソースにたっぷりつけて食べると、とてもおいしい。ただ、これはワインよりビールに合う味だった気がします。ちょっと頼みすぎて、お腹がいっぱいになりました。おいしいリトアニア料理を食べて、ようやく元気が戻りました。

Etno Dvarasの店内。レンガの壁に赤いランプ

Etno Dvarasの店内。レンガの壁に赤いランプ

Etno Dvarasの木のメニュー

Etno Dvarasの木のメニュー

店を出ると、もう夜11時を回っていました。さっきまでにぎやかだった広場には、ほとんど人がいません。ライトアップされたゲディミナスの塔は、ソ連の支配下でもリトアニアの人たちの誇りとして残ってきた、自由の象徴だそうです。その手前には、リトアニア大公たちが暮らした宮殿。レストランも閉まりはじめて、街は静かになっていきました。

10時間以上、列車の座席に揺られてクタクタだった1日。明日はリトアニアから、ポーランドのワルシャワへ向かいます。


この日に出ていったお金:11,168円 50万円の残り:235,098円

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